相生あおはの書庫

ねこにうもれたい。

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音律が面白いって話

こんにちは。相生あおはです。
我々が普段耳にする音階の音、そもそもその音ってどうやって決められてるのかってのが音律です。
最近ふとしたきっかけがあって面白かったのでぱーっと書きます。

~~もくじ~~

きっかけ

社内チャットで「音楽理論的にヤバいことやってそうな曲挙げてこうぜ」みたいな流れになり、その流れで知ったこの曲を聞いたのがきっかけでした。
youtu.be (この曲まじで大好き 教えてくれて本当に感謝)
22秒でGともG#とも形容しがたいG#寄りのピアノの音が鳴ってて「!?」ってなりました(そこ以降でも少し鳴ってる)。
そもそも曲の出だしが我々が慣れ親しんでる音と外れてることは気づいてましたが、いよわさんは調律をずらす曲を作られるのでそれかな~と思ってたんですが、22秒辺りのは明らかに微分音の類だ!ってなりました。改めて聴くとやっぱ違うかも。でもこの、聴き込んでいくと絶対音感が破壊されてMPが削られていく感覚がたまらなく最高ですね…!!最高の音楽体験。
…それで、そういえば平均律純正律があったよね、となり、手持ちの音源を触ったのが始まりでした。

音律とは

古代から、周波数が倍の音は似た響きの音であることが知られていました。これが今で言うオクターヴです。
さて我々が慣れ親しんでる西洋音楽では、1オクターヴの中に12個音が存在することとなっています。そこで問題になるのは12個に分割する際のルールです。それが音律です。

音律の種類: 純正律

音は波です。ですので、基本とする周波数の定数倍の周波数の音をとりあえず鳴らそうと人類は考えました。
ここでは基本周波数の音がCであるとします。まず2倍になると、先述の通り1オクターヴ上の音すなわちCになります。そして3倍ですとGの音になります。4倍は当然Cになります。そして5倍となると、なんとEの音になります。といった具合で、倍音から音階の音を決めていくというのが純正律です。
純正律の基本理念が倍音であることから、音と音の重なりがとても美しくなるのが特徴になります。ですから、賛美歌の様な音の重なりが重視される場面で使われます。

ただ、和音重視の音律なため、旋律として鳴らした場合に違和感が出るのが欠点です。

音律の種類: 平均律

電子音が主流となった現在我々が一番耳にすることが多い音律です。
平均律では、1オクターヴ間の音を指数倍で均等に取ります。例えばC#の音の周波数はCに対して、2の12乗根倍の値を取ります。
この指数倍で均等に取るという考え方は、人間の感覚が指数倍に比例する法則によります。音の大きさや辛さ、酸っぱさや明るさ、そういったものが全て指数倍に比例しています。

指数倍法則の例: 酸っぱさ

pHは水素イオン濃度のマイナス常用対数を取っています。ですので、pHが1下がると水素イオン濃度が10倍になります。

指数倍法則の例: 明るさ

夜空の星々は明るさによって1等星、2等星といった区分がなされています。6等星の星の100倍の明るさが1等星となっていますが、その間の2~5等星の明るさの幅も指数倍(約2.5倍)になっています。

…といったように、平均律は我々の感覚に沿った音律なのでさぞ理想的か、と思いきや違うんです。

平均律の致命的な欠点

本来美しく響くべき完全五度(CとGを同時に鳴らした時の音)が濁るというものです。
ピンと来ない方もいらっしゃると思うので説明すると、純正律の場合だと基本周波数(C)と3倍音(G)が鳴ってたから美しく響いていたものの、平均律だと3倍音であるべきGの音の周波数が僅かにずれて濁るということです。
この濁りを物理の用語で"うなり"と言います、これは皆さんご存知でしょう。当たり前ですが音は波なんです

その他、調律しにくい、合唱で歌いにくい等ありますが本題と離れるので割愛します。

人類は音の美しさを求めて

純正律は旋律に不向きでダメ、平均律では本来美しく鳴るべき和音が濁るからダメ。この問題は古くから知られていました。ですので、実は様々な音律があるんです。一つ例を挙げます。

ピタゴラス音律

Cの3倍音がGと述べました。この、Cから見たGの音の関係性を完全五度と言います。では今度はGから見た完全五度すなわちDの音を定義する際、Gの音の3倍音と定義できるはずです。
以下同様にDから見た完全五度のAをDの3倍音に…としていって音階のすべての音を定義するものです。

これ一見良さそうに見えますが実はドボンがあるんです。
これ音楽やってない人には伝わりにくいと思いますが、例えばGの半音上の音はG#ですし、Aの半音下の音はA♭です。この二つの音は鍵盤を見ると同一の音を指しますが、実はGの半音上なのかAの半音下なのかで意味合いが変わってきます。そしてここら辺のことで問題が起こるそうです。厄介ですね~… ダブルフラットやダブルシャープといった臨時記号があることからも察して頂けるのではないでしょうか*1
ここらへんの話、私が下手に説明するよりも分かりやすく書いてらっしゃる記事がありましたのでご紹介します。面白かったので是非読んでみてください。
www.mie238f.com

実際に弾き比べてみた感想

平均律純正律ピタゴラス音律も欠点がある!なら自分の耳で確かめよう!となりました。
そこで手元にある物理演算ピアノ音源、Pianoteqの出番です。StandardEdition以上だとTUNING項目から設定できます。別に案件とかではありません。
なんとプリセットされてる音律がこんなにある!世界は広い!ちなみにEqualが平均律(デフォ)、Just intonationが純正律です。

プリセットされてる音律だけでも沢山
早速弾きながら聴き比べ。↓を勝手に編曲して弾いてました。
youtu.be

結果、個人的に一番しっくりきたのがNeidhardt IIIという音律でした。どうやらJohann Georg Neidhardtという17世紀の人が考案した、平均律に極めて近い音律のようです。

数値で見るNeidhardt III

さあ答え合わせです。

3倍音では

Gの音の周波数がCの音に対し、平均律よりも1.5倍に近い値であれば感覚が正解していることになります。

おっと…?
なんとNeidhardt IIIの方が平均律よりGの音がズレており完全五度が濁るということになりました。お、おかしいなぁ……
言い訳のためにセントという音の間隔の単位を持ち出すと、純正律平均律の差は1.96セント、純正律と今回のNeidhardt IIIの差は3.96セントという計算です。2セント分の改悪です。

5倍音では

一方、Cに対するEといった5倍音に関して見ると、

よさそう
こちらはNeidhardt IIIの方が平均律より近く、より綺麗に響く計算となります。
純正律平均律の差は13.7セント、純正律と今回のNeidhardt IIIの差は7.79セントという計算です。5.9セント分の改善です。

ということでまとめると、2セント分は改悪しても5.9セント分は改善される結果になりました。精査するなら他の倍音でも計算しろという話になりますがまぁ感覚は概ね正解といったところでしょうか、たぶん

意図せず判明した私の絶対音感解像度

正直言って2セントの差は分かりません!弾きながらでなく、しっかりCとGを同時に鳴らして聞き比べましたが、Neidhardt IIIは正直いって平均律と同じくらいの濁りに聞こえます。分かりません無理です!
実のところ、CとEを同時に鳴らした場合は僅かにわかるかな、って感じでした。でも実際に弾きながらだとはっきり感覚的に分かったので、5.9セント分の改善はわかるのでしょう。

ということで私の絶対音感解像度は2セントより粗く5.9セント以下の解像度、となる…??しらんけど…
まぁ定期的にTLで流行る音感テストは必ずA+出せるんで、まぁこのくらいの誤差は平気かな?という感じです。

これ実はA+の上にSがあるオチだったりして。

それにしても和音で鳴らした時の純正律の威力は凄いですね、これははっきりわかります、明らかに透き通っています。不思議なものです。

そしてふと怖くなる

絶対音感持ちの我々って、何をもって音程を判定しているんでしょう。少なくとも私の場合、脳内には各12音に対しそれぞれ基準音が複数あって、それらを基に判定しています。まぁ精神状態や酔いの加減でズレたり一時的に壊れたりするんですが。

ただ今回、数多ある音律の一部に、明確にこの音と決められない音が鳴るものが存在しました。しかしそれも、その音律ではドレミのはずなんです。
我々は多分平均律純正律辺りの幅に収まった音を、音名判定可能としているんでしょう。それでも今回聞き比べた音律には恐らく全てに合理的な理由があるはずで、それらの一部の音は音名判定が出来ません。半音ズレてるんちゃうかというものまでありました。一体ドレミって何なんでしょうか。ちょっと怖かったです。



いつも我々が耳にする音階なんて所詮和声が勝手に決めたものです。世界中にはもっといろんな音階が存在して、実際に聞くと音名判定不能なものが平気で出てきます。私の絶対音感西洋音楽なら使えるのにそれ以外では使えない、そんな矮小さを感じるとともに音楽の世界の広さを実感してエモくなりました。
普段作曲してるとあまり意識しないくらい基礎的な内容ですが、基礎的だからこそ立ち止まって思いを馳せることが出来て面白かったですね。そして微分音に興味が湧いてきました。対応した音源増えて~


それでは

*1:まさかと思ってトリプルシャープなんてないよねと思ったらありました(真顔)。記事書かれてる方も似たようなこと仰ってますが作曲者これ絶対ウケ狙いだと思う………ってアルカンじゃん作曲者!!!!ふつーーーに知ってる曲だったよこれ!!!!!!!いま超ビックリしてる